多くの観客を呆然とさせたのが、クライマックスの「キャラバン」演奏シーンだ。罠に嵌められ、惨めな思いをさせられたはずのアンドリューが、自らステージを支配し、フレッチャーの指揮すら無視して爆発的なソロを叩き始める。あのラストシーンで、二人の間には何が起きたのか。
フレッチャーの真の意図は、無難な秀才を作るのではなく、歴史に名を残す「本物の怪物」を生み出すことにあった。「英語で最も危険な言葉は『上出来(Good job)』だ」という彼の哲学の通り、常軌を逸した極限状態に追い込むことでしか開かない才能の扉を探していたのだ。そしてアンドリューは、その地獄を受け入れ、自ら狂気の世界へ足を踏み入れた。ラストのアイコンタクトと微かな笑みは、和解でも許しでもない。怪物が怪物を認めた、悪魔の契約の瞬間なのだ。