本作の最大の骨格は、鹿児島県川辺郡知覧町(現・南九州市)で軍指定の食堂「富屋食堂」を営んでいた鳥濱トメ(演:岸恵子)の目撃証言です。1945年春、沖縄決戦に向けて知覧基地は陸軍特攻基地となり、全国から10代後半から20代前半の若き飛行将校たちが集結しました。彼らは死を前提とした過酷な出撃命令を待つ間、トメを「小母さん(お母さん)」と慕い、本心をさらけ出しました。
トメは軍の監視をかいくぐりながら隊員の私財を預かり、検閲を通さずに故郷の家族へ届ける「裏の手紙」を託されるなど、彼らにとって最後の精神的防波堤となりました。映画に登場する「ホタルになって帰ってくる」という有名な言葉は、出撃前夜に宮川三郎軍曹がトメの娘たちに残した実在の発言であり、戦後トメが知覧の真実を語り継ぐ原動力となった象徴的な出来事です。
鹿児島県南九州市知覧町にあるホタル館 富屋食堂は、トメの没後も当時の姿に復元され、遺品や隊員直筆の書簡が常設展示されています。2026年現在でも修学旅行生や歴史研究者が途切れることなく訪れ、映画で描かれた光景が単なるフィクションではなく、血の通った一次証言である事実を証明しています。