水深8000メートルにおける水圧は、およそ800気圧。1平方センチメートルあたり約800キログラムという、想像を絶する圧力が全方位から押し寄せる。通常の魚類であれば、細胞膜が破壊され、体内の蛋白質は固化し、骨格すら粉砕されてしまう世界だ。
超深海研究の第一人者である西オーストラリア大学のアラン・ジェミーソン教授らの研究チームによれば、この魚の体内には高濃度のトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)と呼ばれる有機化合物が充満している。TMAOは水分子と強力に結合し、高水圧下でも蛋白質の構造が変性するのを防ぐ「分子のプロテクター」として機能する。さらに、彼らは鱗(うろこ)を完全に退化させ、ゼラチン質の柔らかい皮膚と軟骨主体の骨格を獲得することで、外部からの膨大な圧力を体全体へ均等に分散させているのだ。未公開の全ゲノム解析データからは、圧力下での代謝効率を高める独自の遺伝子重複現象も判明しており、まさに極限生命の極致と言える。