芸能人が多額の私財を投じて歯を再生させる姿を見るにつけ、一般の視聴者や患者の間でも「全抜歯して総入れ歯やインプラントにしてしまったほうが手っ取り早いのではないか」という極端な発想を抱く人が後を絶ちません。しかし、臨床の現場や実際の経験者のリアルな声に耳を傾けると、現実はそう甘くありません。
SNSや大手知恵袋、歯科専門コミュニティに寄せられた「全顎治療経験者」の生の声からは、以下のような切実な実態が浮かび上がります。
「総入れ歯にしてから、大好物だったお寿司のマグロの温度や繊細な味が分からなくなった。上顎の粘膜がプラスチックで覆われるため、温かいお茶のぬくもりも伝わらない」(60代男性・自費金属床義歯使用者)
「芸能人のような真っ白な歯に憧れて、400万円かけて全顎インプラントにした。見た目は完璧だが、天然歯のように歯根膜(噛んだときのクッション)がないため、硬いものを噛んだときの衝撃がダイレクトに頭蓋骨に響く。インプラント周囲炎の予防のために毎月のプロフェッショナルケアが欠かせず、維持費が想像以上にかかる」(40代女性・自営業)
このように、義歯であれインプラントであれ、一度失った天然の歯とまったく同じ感覚を取り戻すことは現代医学をもってしても不可能です。芸能人は職業上、巨額の投資と定期的な専属メンテナンスを前提として外観を維持していますが、一般生活者が同様の選択をする際には、生活の質(QOL)に直結する機能面のトレードオフを冷徹に見極める必要があります。