バビンスキー反射とは、足底(足の裏)の外縁を踵からつま先に向かって刺激した際に生じる特殊な反射運動のことです。フランスの神経科医ジョセフ・バビンスキーが1896年に医学会へ報告したことからその名が付けられました。神経診察において極めて頻繁に用いられる基本的な検査項目の一つであり、カルテ上では「バビンスキー徴候(Babinski sign)」とも記載されます。
健康な成人の場合、足の裏をなぞられると足の指全体が足底側(下側)へキュッと曲がります。これを「足底反射の正常反応(陰性)」と呼びます。これに対し、足の親指(母指)が甲側に向かってゆっくりと反り返り(背屈)、同時に他の4本の指が扇状にパッと広がる反応(開扇現象:かいせんげんしょう)が起こる状態を「バビンスキー反射陽性」と判定します。
なぜこのような現象が起きるのでしょうか。その理由は、人間の運動指令を司る中心ルートである「錐体路(すいたいろ)」の抑制機能にあります。人間の体には本来、足裏に強い刺激を受けると危険から逃れるために足を引っ込め、足指を反らせようとする原始的な屈曲反射の回路が備わっています。しかし、人間が成長して脳が発達すると、大脳皮質から延びる錐体路がその無駄な反射を上から強く抑え込むようになります。その結果、成人の正常な足底反射では下向きに指が屈曲するのです。
ところが、脳梗塞や脊髄損傷などによって錐体路が途中で寸断されたり障害を受けたりすると、脳からの「抑え込み」が利かなくなります。大脳によるコントロールを失った脊髄は原始的な反射をむき出しにしてしまい、結果として母指が上を向いて反り返る現象が現れます。これが「バビンスキー反射の母指背屈が起こる理由」です。