武相高校を語る上で避けて通れないのが、甲子園に春夏通算6回の出場実績(春2回、夏4回)を誇る野球部の存在です。しかし、2000年代以降の高校野球ファンにとって強烈な記憶として残っているのは、2012年7月12日、全国高等学校野球選手権神奈川大会2回戦(対日大藤沢戦)で起きた「インフィールドフライ事件」ではないでしょうか。
同点の9回裏1死満塁という極限状態の中、打者が打ち上げた小飛球に対して審判員がインフィールドフライを宣告。捕手が落球した直後、グラウンド上の守備陣は打者がアウトになったこと、そして「ボールデッドになった」という誤った思い込みからマウンド付近へタイムを要求しに集まってしまいました。しかし、インフィールドフライはボールインプレイ(インプレー)であり、審判員もタイムを宣告していませんでした。三塁走者はその隙を見逃さずタッチアップから本塁へ生還。サヨナラ負けという悲痛な結末を迎えました。
当時、試合終了直後の選手たちの呆然とした姿や審判への猛抗議がテレビ放映され、動画共有サイトや掲示板で瞬く間に拡散。「ルールを知らないのか」「見苦しい」といった心ない誹謗中傷がネット上に溢れかえり、選手や学校関係者は深い傷を負うことになりました。しかし、現地取材班の記録や当時の球場関係者の証言を丹念に振り返ると、グラウンド内の喧騒で審判の宣告が選手に正確に通っていなかった点や、一瞬の心理的パニック状態が重なった不幸なアクシデントであったことが浮き彫りになります。
この痛恨の敗戦以降、武相高校野球部は指導体制の刷新とチーム体質の抜本的改革に着手しました。強豪ひしめく激戦区・神奈川(横浜、東海大相模、慶應義塾、桐光学園など全国トップクラスが密集する最激戦区)において、かつてのような精神論一本槍の指導から脱却。科学的なトレーニング論、コンディショニング管理、綿密なルールスタディの徹底など、現代的な育成メソッドを導入しています。
監督交代や指導スタッフのプロ化などを経て、2020年代以降は夏の県大会でも上位進出を果たすなど、シード校を脅かす存在へと確実に復調。ネット上で貼られた不名誉なレッテルを結果とひたむきなプレーで覆すべく、新グラウンド設備のもとで古豪復活への階段を力強く歩んでいます。