犬が首を伸ばして声を長く響かせる行動の根底には、祖先であるハイイロオオカミから連綿と受け継がれてきた遺伝情報が存在します。進化の過程で人間との共生に適応した現代の家庭犬であっても、犬の遠吠えと心理や本能は完全に切り離すことはできません。野生のオオカミにとって、遠吠えは何キロメートルも離れた仲間と連絡を取り合い、群れの位置を確認し、結束を高めるための不可欠な遠距離コミュニケーションツールでした。
家庭で暮らす愛犬にとっても、この本能的な衝動は色濃く残っています。飼い主の外出中に鳴く場合、犬は自分を群れの一員と認識したうえで、「私はここにいる、どこにいるの?」と所在を確かめようとしているケースが多々あります。また、近隣の犬が鳴き声を上げた際に連鎖して遠吠えが広がるのも、犬の遠吠えと仲間とのコミュニケーション本能がダイレクトに刺激された結果です。
遺伝子解析が進んだ現在の研究現場でも、シベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュート、さらには日本犬の代表格である柴犬など、オオカミに近い古い遺伝子グループ(古代犬種)ほど頻繁に遠吠えを行う傾向が確認されています。一方で、愛玩犬として品種改良が重ねられた犬種では遠吠えの頻度が極めて低い個体も多く、犬の遠吠えとオオカミの祖先のDNAの関わりは個体差や犬種特性によって色濃く現れます。