「美味しいトマトは水に沈む」という有名な選別法があります。テレビの検証番組や実験企画でも度々取り上げられますが、この現象の背景には物理学と植物生理学が交差する明確な論理が存在します。水に浮くか沈むかは、純粋にトマトの平均密度(比重)が1.0 g/cm³を超えているかどうかで決まります。
一般的な水分たっぷりの大玉トマトは、比重が約0.95〜0.98程度であり、内部に微小な空気の隙間(細胞間隙)や水分の多いゼリー部を抱えているため水に浮きます。しかし、糖度を高めるために土壌水分を極限まで絞って栽培された高糖度トマトは、細胞の肥大が抑えられる代わりに、細胞質内に糖(グルコース、フルクトース)、有機酸、アミノ酸、ペクチンなどの固形分を高濃度に蓄積します。その結果、内部組織が極めて緻密になり、比重が1.02〜1.05前後に達して水底へと沈むのです。
選果場ではこの原理を応用した比重選別ラインが実用化されており、水槽を流れる過程で浮上するものと沈降するものを自動選別し、等級分けを行っています。家庭のキッチンでボウルに水を張って試す場合、底にすとんと沈むトマトは、測定器を用いずとも糖度8度から10度前後の水準に達していると判断して間違いありません。日常の買い物で水没テストを行うことは叶いませんが、「水に沈むほどの重量密度」を手のひらの感覚として覚えておくことは、店頭での目利き精度を劇的に向上させます。