多くの人が疑問に抱く「なぜ赤ん坊の姿をした老人が石のように重くなり、人を押し潰すのか」という点には、伝承の発展と創作の融合が深く関わっています。
阿波の原典伝承において語られていたのは、「赤ん坊だと思って抱き上げると、その姿が老人に変わり、次第にしがみついて重くなって離れなくなり、最終的に息の根を止められる」というプロセスでした。この「抱き上げると次第に重くなる」という怪異の性質は、日本の民間伝承に広く見られる「産女(うぶめ)」や「おんぶお化け」と極めて類似した構造を持っています。人間が抱いた憐憫や慈悲の心に付け込み、背負わせた後に逃げ場を奪う精神的・肉体的な恐怖が本質にありました。
この伝承を決定的に変えたのが、漫画家・水木しげる氏によるビジュアル化と設定の再構築です。水木氏は徳島の伝承に登場する「次第に重くなる」という要素を、「自らの体を鉱物化(石化)させ、重量を何十貫・何トンにも増大させて敵を押し潰す豪快な必殺技」へと昇華させました。哀しい山村の怪談が、妖怪バトルを彩るダイナミックなアクション能力へと生まれ変わった瞬間です。