天空の森を語る上で欠かせない存在が、創業者でありオーナーの田島健夫氏です。田島氏はかつて、茅葺き屋根の古民家を再生し、今や日本全国の旅館の標準となった「露天風呂付き客室」のパイオニアとされる「忘れの里 雅叙苑」を立ち上げた伝説の人物です。
雅叙苑の成功で日本旅館の頂点を極めた田島氏が、次代の構想として掲げたのが天空の森でした。周囲からは「山の中に宿など作っても人が来るはずがない」と猛反対を受けながらも、自ら重機を操り、実に15年以上の歳月と私財を投じて雑木林の山を切り拓きました。その建設プロセスは、商業的なリゾート開発というよりは、一人の人間が理想郷を具現化するための執念の芸術活動に近しいものでした。
自著やメディアの特番インタビューで田島氏が一貫して語ってきたのは、「観光とは国の光を観ること。本物の光とは、その土地の土であり風であり、そこで育まれた命そのものだ」という信念です。プラスチックやコンクリートで固めた偽りのラグジュアリーを徹底して拒絶し、地元産の木材と石、そして自給自足の食をベースにした空間設計。この強固な作家性があるからこそ、流行に左右されない不朽の価値が宿り続けています。