冠婚葬祭において禅宗の寺院と関わる際、参列者が最も驚くのが葬儀の独自性です。他宗派の葬儀が「故人を極楽浄土へ送り届ける」というニュアンスを持つのに対し、禅宗の葬儀は「故人が出家して仏弟子となり、悟りを開くための儀礼」という意味合いを持ちます。
そのため、式次第には故人に仏弟子としての戒律を授ける「授戒(じゅかい)」と、迷いを断ち切ってあの世へ導く「引導(いんどう)」が含まれます。導師が「喝(かつ)!」と大音声で一喝する瞬間がありますが、これは故人の現世への執着を断ち切り、仏界へ目覚めさせるための慈悲の叫びです。決して怒っているわけではないため、参列者が過度に動揺する必要はありません。
焼香のマナーにも宗派ごとの細かな相違が存在します。
- 曹洞宗の焼香:焼香台の前で一礼後、抹香を右手でつまんで額の高さまで押しいただき、香炉へくべる(主香)。続いて2回目は押しいただかずにそのままくべる(従香)。合計2回。
- 臨済宗の焼香:抹香を指先でつまみ、押しいただかずにそのまま香炉へ落とす。回数は1回が基本(寺院や地域により異なる場合あり)。
また、禅宗の戒名(法名)の構成は、厳格な階層構造を持っています。
一般的に「院号(いんごう)+道号(どうごう)+戒名(かいみょう)+位号(いごう)」の4つのパーツで構成されます。例えば「〇〇院 △△ ✕✕ 居士」という並びになります。このうち、仏弟子としての名前そのものは中間の2文字(✕✕)のみであり、道号(△△)は故人の人柄や徳行を表す言葉が選ばれます。禅宗では厳格な修行規律を背景に持つため、位号も「居士(こじ)・大姉(だいし)」「信士(しんじ)・信女(しんにょ)」といった格式が明確に受け継がれています。