本作の撮影が行われた2000年夏、妻夫木聡は弱冠19歳から20歳の多感な時期にありました。ホリプロ主催の『アミューズメントオーディション』でグランプリを獲得し芸能界入りしたものの、当時の彼はドラマ『池袋ウエストゲートパーク』などで頭角を現し始めた新鋭の1人に過ぎませんでした。映画初主演という重責がかかった『ウォーターボーイズ』のオーディションは、まさに俳優人生の分岐点でした。
メガホンを取った矢口史靖監督が求めたのは、単なる美男子ではなく「どこにでもいそうな頼りなさ」と「内に秘めた愚直なまでの真っ直ぐさ」を併せ持つ存在でした。妻夫木聡が演じたウォーターボーイズの鈴木智役は、廃部寸前の水泳部でたった1人残り、ひょんなことから男子シンクロチームのリーダーに祭り上げられてしまう落ちこぼれの高校生です。当時のインタビュー記録によると、監督は彼の「飾らない素朴な笑顔」と「悔しさを全身で表現できる眼差し」に強い確信を抱いたと述懐しています。
当時の映画界では、アイドルのネームバリューに頼るキャスティングが主流でした。しかし本作は、無名に近い若手俳優たちを競い合わせ、実際のスキル習得度合いに応じて役柄の比重を決める実力主義を採用。この徹底したリアリズムへのこだわりが、妻夫木聡という天性の表現者を大きく覚醒させる契機となったのです。