かつて政治的な裏切りや妥協を指していた「日和る」は、1980年代から1990年代にかけて若者のサブカルチャーや学園空間へと広がり、徐々にその重苦しい政治色が抜け落ちていきました。「周囲の目を気にして行動を控える」「当初の勢いを失って弱気になる」といった意味合いへとソフト化が進んだのです。
2000年代以降のインターネット黎明期からSNS全盛期においては、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)やオンライン対戦ゲームの実況配信などを通じて、「日和った(ひよった)」というネットスラングが完全に定着しました。例えば、ゲーム内で強気に攻めるべき場面で守りに入ってしまったり、SNSで強気な発言をした後に炎上を恐れて投稿を削除したりする行為を「ひよったプレイ」「日和ってツイ消しした」などと表現する文化が醸成されたのです。
さらにこの言葉を2020年代のポップカルチャーにおける特大トレンドへと押し上げたのが、大ヒット作品『東京リベンジャーズ』に登場する主要キャラクター・佐野万次郎(マイキー)の放った名台詞、「東卍(トーマン)に愛美愛主(メビウス)に日和ってる奴いる? いねえよな!!」でした。2021年のアニメ放送を皮切りにTikTokやYouTubeショートなどで爆発的に音源がミーム化され、「日和ってる奴いる?」のフレーズは同年の新語・流行語大賞トップテン候補や各種若者流行語ランキングで1位を獲得。かつての政治用語は、半世紀の時を経て「プレッシャーに怯まず前へ進むための鼓舞フレーズ」として完全に再定義されました。