今夜、東の空から昇ってきたばかりの月や、西の地平線へと沈みゆく月が赤く見えている場合、その正体は「大気の影響」と「光の波長」による光学現象です。特別な天変地異が起きているわけではなく、夕日が真っ赤に見えるのと全く同じ物理プロセスが夜空で展開されています。
太陽光を反射して光る月の光には、紫から赤まであらゆる波長の光が含まれています。しかし、光が地球の大気圏を通過する際、大気中の窒素や酸素などの微粒子に衝突して散乱を起こします。これを物理学でレイリー散乱と呼びます。
光の性質として、波長が短い青い光(約400〜500nm)は空気分子によって激しく散乱され、途中で四方八方に消え去ってしまいます。一方で、波長が長い赤い光(約620〜750nm)は障害物をすり抜ける直進性が高く、散乱されにくいため、遠くまで届く特徴があります。
国立天文台の解説資料によると、月が天頂(頭上高く)にある時に比べて、地平線や水平線に近い低空にある時は、光が通過する大気の層が約40倍も厚くなります。そのため、青い光は途中で完全に散乱されて人間の目には届かず、散乱を生き残った赤い光だけが網膜へと到達し、月全体が赤や濃いオレンジ色に染まって見えるのです。
さらに、春先に飛来する黄砂やPM2.5、大気汚染物質、あるいは森林火災の煙粒子が大気中に漂っていると、微粒子による「ミー散乱」が加わり、月の中高度であっても異様なほど赤褐色に濁って見える現象が発生します。今夜の空が赤く濁っている場合、近隣の大気環境や微粒子の飛散状況も大きく関係しています。