手袋をなぜ「双」と呼び、片手を「隻」と呼ぶのか。その理由は、古代中国における漢字の原義にさかのぼることで明快に理解できます。
漢字の成り立ちを紐解くと、「双」の異体字や甲骨文字は、手(又)に鳥を二羽持っている姿を象形化したものです。ここから「二つ備わって一組をなすもの」を指す助数詞へと発展しました。手袋のみならず、左右一対を並べて使用する「屏風(びょうぶ)」を数える単位が「一双(いっそう)」であるのも同じ言語体系に基づいています。
他方、「隻」という漢字は、手(又)に鳥を一羽だけ持っている姿を描いた会意文字です。すなわち、「本来二つあるべき対(ペア)のうち、一方のみが存在する状態」を意味しています。大型の船を「一隻、二隻」と数える語源も、古来の軍船が左右対になって防備を固めていた歴史規範に由来するという言語学的見解が有力です。片方の手袋を「1隻(いっせき)」と表す表現は、単に物が孤立しているのではなく、「対の相方を失っている」という背景情報を一文字で伝える高度な日本語の知恵といえます。