2017年の法案成立から歳月が流れた現在、警察当局によってテロ等準備罪が公に適用され、起訴された事件は極めて限定的です。これをもって「反対派の警告は大げさなデマだった」「何も起きなかったではないか」と断じる言説が一部に散見されます。しかし、治安法制の専門家や社会学者たちの見解は全く異なります。
テロ等準備罪の真の恐ろしさは、実際に検挙されること以上に、存在するだけで市民の心理を縛る「萎縮効果(チリング・エフェクト)」にあるからです。公権力による監視の目を意識せざるを得なくなった結果、以下のような現場レベルの変容が生じています。
地方自治体の環境保護運動や基地反対運動、原発反対デモなどの市民活動現場では、「警察にマークされるのではないか」「自分たちの活動が組織犯罪と見なされるのではないか」という不安から、一般参加者が集会への参加を躊躇するケースが定着しました。インターネット空間でも、過激な批判や風刺的な表現を「テロ等準備罪に触れるかもしれない」と自主規制する風潮が生まれました。目に見える逮捕者が少ないことこそ、法律が市民の行動を事前にコントロールする「抑止装置」として機能している証左であると指摘されています。