フライパンだけで厚切り肉を焼き上げようとすると、金属面からの一方的な強い伝導熱により、肉の外側ばかりが過熱されてしまいます。肉のタンパク質を構成するミオシンは約50℃で凝固を始めて旨味を保ちますが、アクチンは約66℃を超えると急速に変性し、スポンジを絞るように大量の水分(肉汁)を外へと押し出してしまいます。フライパンの強火調理では、中心部に火が通る頃には外周部が80℃近くまで達し、パサつきと硬さの元凶となるのです。
ここで威力を発揮するのがオーブンです。オーブンは庫内全体の空気を温め、360度全方位からの「対流熱」と「輻射熱」によって肉全体を包み込むように加熱します。これにより、表面だけが焦げ付くリスクを排除しながら、内部へと穏やかに熱を浸透させることが可能になります。失敗しないステーキの焼き方の理由は、まさにこの「急激な熱衝撃を与えず、アクチンの収縮を抑えて水分保持力を最大化する熱伝導の仕組み」に集約されます。