漢字の正体である「カジカ」とは、一体どのような魚なのでしょうか。釣り人や渓流沿いの郷土料理店を取材すると、そのグロテスクな見た目からは想像もつかない、驚くべき美味の真実が見えてきます。
カジカはカサゴ目カジカ科に属する魚で、水質が極めて清らかな河川の上流域から中流域の石の下に潜息しています。平たい頭部と大きな口、ギョロリとした目つきを持ち、体長は10〜15センチメートル程度。石に擬態して水生昆虫や小魚を待ち伏せする生態を持っています。環境の変化に極めて敏感な「清流の指標生物」でもあり、水質汚染が進んだ河川からは真っ先に姿を消してしまう繊細な魚です。
このカジカがなぜそれほど珍重されるのか。その真価は郷土料理にあります。北陸や東北、甲信越地方では、カジカを味噌仕立ての鍋にして食す伝統があります。地元ではこの料理を親しみを込めて「鍋壊し(なべこわし)」と呼びます。「あまりの美味さに、鍋の底を箸で突きすぎて壊してしまう」という逸話が残るほど、カジカから出る出汁は濃厚で、上品な甘みとコクを湛えているのです。
金沢の老舗川魚料亭の料理長は、取材に対して次のように語っています。
「秋の落ち鮎の時期が終わると、カジカの季節です。腹に卵を持ったメスや、秋の冷たい水で身が締まったオスのカジカは、鮎やイワナをも凌ぐ極上の出汁が出ます。素焼きにして熱燗を注ぐ『カジカの骨酒』は、フグのヒレ酒を遥かに超える香ばしさと旨味があり、一度味わった常連客は毎年これだけを目当てに足を運ばれます」
【プロの結論】本物の鰍料理を味わうべき人と慎重になるべき人の判断基準
川魚の最高峰とも称される鰍料理ですが、誰にでも手放しでおすすめできるわけではありません。食材としての個性が際立っているからこそ、明確な向き・不向きが存在します。
【鰍料理を心から堪能できる人】
・全国の郷土料理や、その土地でしか獲れない希少食材を深く愛好する人
・フグのヒレ酒やスッポン鍋など、野趣あふれる濃厚な「出汁の旨味」に目がない人
・清流の恵みや日本の伝統的な食文化に敬意を払い、希少な天然モノの価値を理解できる人
【慎重になるべき・おすすめできない人】
・魚の頭や骨、皮のグロテスクな見た目(カサゴやハゼのような顔つき)に抵抗がある人
・あっさりとしたクセのない白身魚の切り身だけを好む人
・都市部の一般的な大衆居酒屋の価格帯(1人前数千円〜)で手軽に食べられると考えている人
現在、天然のカジカは河川環境の改変や温暖化の影響で生息数が減少しており、1キロあたり8,000円を超える高値で取引されるケースも珍しくありません。もし清流沿いの宿や専門の割烹で出会う機会があれば、日本の秋が育んだ奇跡の味として迷わず注文することをおすすめします。