美術史を振り返ると、表現の極限に挑んだアーティストたちの精神世界にも、統合失調症あるいはそれに近い知覚の変化が垣間見える。印象派の巨匠ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの描く劇的なうねりや、鮮烈すぎる色彩の配置は、過酷な精神的危機のさなかで生み出された。また、猫の絵で知られるイラストレーターのルイス・ウェインは、晩年に病が進行するにつれて、描かれる猫のモチーフが幾何学的かつ抽象的なパターンへと変容していったことで有名だ。
しかし、ここで警戒しなければならないのは、「狂気が天才を生む」という安易な美化や神話化である。彼らの芸術的才能は病気そのものによってもたらされたのではなく、病によってもたらされる過剰な知覚体験や苦悩に抗い、表現へと昇華させようとした人間の強靭な精神力によるものだ。病魔に蝕まれながらも筆を握り続けた彼らの爪痕は、芸術が持つ救済の側面を色濃く物語っている。