なぜ、慣れ親しんだはずの図形や文字が突如として意味を失うのだろうか。この謎を解き明かす鍵は、20世紀初頭に生まれた認知心理学のアプローチにある。当時、心理学者のマックス・ヴェルトハイマーらは、人間が物体を捉える際、単なる個々の要素の足し算ではなく「全体としてのまとまり(ゲシュタルト)」を優先して認識するという視覚の特性を提唱した。
しかし、特定の対象を連続して注視し続けると、脳内の神経細胞が順応を起こし、発火の頻度が低下する。その結果、構成要素を統合して把握する知覚回路が機能しなくなり、ゲシュタルト崩壊と呼ばれる現象が発生するのだ。歴史的には、ドイツの心理学者C. ファウストが失認症の研究過程で、文字の全体像が認識できなくなる病態として記載したことが学術的な発端とされる。現代では健常者にも起こる一時的な視覚疲労の現象として広く知られている。