高知の「はりまや橋」、長崎の「オランダ坂」と並び、長らく「日本三大がっかり名所」と揶揄されてきた札幌市時計台。旅行クチコミサイトやSNS上でも、「想像以上に小さかった」「高層ビルに囲まれていて風情がない」といったネガティブな感想が定期的に拡散されます。なぜ、これほど歴史的価値の高い国指定重要文化財が、不評を買ってしまうのでしょうか。
取材と現場検証から浮かび上がった最大の理由は、「観光ポスターが植え付けた先入観と、現実の景観がもたらす認知的不協和」です。北海道といえば「果てしなく広がる大自然や緑豊かな牧草地」というパブリックイメージが根強く存在します。旅行者の脳内には、無意識のうちに「青空と草原の中にポツンと立つ瀟洒な洋館」という虚像が作られがちです。しかし、実際の時計台が鎮座するのは、北海道随一のビジネス街である札幌市中央区北1条西2丁目。片側数車線の幹線道路沿いで、周囲を近代的なガラス張りの高層オフィスビルに四方を囲まれています。
さらに、多くのツアー観光客が陥る「0分観光」の弊害も見逃せません。大型バスから降り立ち、横断歩道の手前や路上からスマートフォンのカメラを向け、外観だけを1〜2分撮影して足早に立ち去る――。こうした表層的な消費スタイルでは、「ビル街の中に小さな白い建物があった」という視覚的情報しか記憶に残りません。背景にある歴史的文脈や内部空間の圧倒的な木造美に触れる機会を自ら放棄していることが、不当な低評価を量産し続ける構造的要因となっています。