厨房で采配を振るう料理長の手元を見れば、この店が辿ってきた研鑽の深さが一目でわかる。手掛けるのは、端正な割烹・懐石のコースにとどまらない。中盤に差し込まれる江戸前寿司の握りは、専門の鮨屋を唸らせるほどの完成度を誇る。
赤酢と米酢を絶妙な比率でブレンドしたシャリの温度管理、ネタごとに施される細やかな包丁の切れ目、そして煮切り醤油の調合。ひとりの板前が会席の煮炊きから寿司の握りまでを高次元で統括するスタイルは、現代の日本料理界でも極めて稀有だ。異なる二つの伝統技法がカウンターの上で見事に溶け合い、ゲストを飽きさせる隙を一切与えない。