日本の二輪車産業が築き上げてきたコミューター文化の原点を辿れば、本田技研工業の創業者である本田宗一郎の思想に行き着く。「人々の生活を楽にしたい」という純粋な技術者魂から生まれた名車スーパーカブは、耐久性と経済性を極限まで追求した設計で世界中の道を塗り替えた。その精神的系譜は、現代の125ccクラスのモデル群にも色濃く受け継がれている。
近年、このカブを巡る文化的再評価が国内外で急速に進んだ。山梨県北杜市を舞台に、孤立した女子高校生が中古のスーパーカブと出会い、世界を広げていく姿を描いたアニメ『スーパーカブ』。繊細な筆致で描かれた少女の内面とバイクの細密な描写は、Netflixを通じて世界中に配信され、国境を越えた共感を呼んだ。
アニメの中で描かれたのは、スピードやスリルではない。給油1回で数百キロを走る経済性、風を切る自由、そしてどこまでも連れて行ってくれる頼もしさだ。画面越しに伝わるそのリアリティは、無機質な移動手段と見なされがちだった小型二輪に情緒的な価値を再発見させ、若年層や女性ライダーがピンクのナンバーを日常の相棒として選ぶ契機を作り出した。