2つの呼称が混在するようになった根本的な原因は、日本におけるキリスト教伝来の歴史と、言葉の語源にあります。
英語で教皇を意味する「Pope(ポープ)」は、ラテン語の「Papa(パパ)」、さらに遡ればギリシャ語の「Pappas(父親)」に由来します。信徒にとって親愛なる「霊的な父」を意味する言葉であり、これが中国や日本に伝わる過程で翻訳の模索が行われました。
戦国時代にイエズス会によってキリスト教が日本へもたらされた際、当時の文献では「パパ」と音訳されたり、「教の主」などと表現されたりしていました。明治維新期に西洋の諸制度を日本語へ翻訳する際、世俗の君主(EmperorやKing)と区別するため、宗教的な最高権威に対して「法王」という訳語が広く定着したのです。
しかし、カトリック教会側はこの「法王」という言葉に違和感を抱き続けていました。「法王」という語はもともと仏教において「仏(釈迦)」や「優れた教法を持つ王」を指す言葉(ダルマ・ラージャ)であり、仏教的なニュアンスが強いこと、また「世俗の法律を司る王」のような印象を与えてしまうことが理由です。
これに対し、「教皇」は「宗教の教えを全世界に伝える最高の長」という意味合いをストレートに表しています。そのため、日本の教会組織は早い段階から「教皇」を正式名称と位置づけていました。