田沢湖の西岸、潟尻地区の湖水上に立つ黄金の「たつこ像」。この像は1968年(昭和43年)5月12日に除幕されたブロンズ像であり、手掛けたのは日本を代表する彫刻家・舟越保武(ふなこし やすたけ)氏です。
舟越氏はキリスト教信仰に根ざした静謐で気品ある人物像で知られ、文化功労者にも選ばれた近代日本彫刻の至宝。関係者の証言や当時の制作記録によると、舟越氏は伝説上の「龍になった哀しい娘」を単なる怪異や悲劇の怪物としてではなく、「純粋さゆえに神となった無垢な少女の永遠の美」として表現することに心血を注ぎました。像の高さは約2.3メートル。湖面から突き出た岩座の上に、憂いを帯びつつも凛とした眼差しで湖を見つめる姿は、観る者の心に深い静寂をもたらします。
多くの観光客が抱く「辰子像はなぜ金色なのか」という疑問には、明確な理由があります。第一に、酸性度が高かった田沢湖の水質や厳しい風雪からブロンズを保護するための金箔加工(特殊メッキ仕上げ)であったこと。第二に、国内屈指の透明度と深さを誇る田沢湖の独特な「瑠璃色(ラピスラズリ色)」の湖水に対し、黄金の輝きが最も美しく調和するという計算された美術的演出によるものです。四季折々の自然光を受けて色合いを変える黄金の肌は、半世紀以上を経た現在も神秘的な光彩を放ち続けています。