ネット上で流布した言説の多くは、卑劣な集団リンチ、あるいは理不尽なイジメの決定的瞬間という枠組みで語られていた。動画内で激しい暴力を受けたとされた少女「りん」の身元特定運動は瞬く間に過熱し、無関係な学校名や居住地域、さらには親の勤務先とされるデマまでもが白日の下に晒された。だが、取材班が関係者への接触を重ね、独自に入手した当時の全編映像と関係者の証言を突き合わせた結果、そこにはSNSで流布された単純な勧善懲悪ストーリーとはまるで異なる泥沼の事実関係が存在していた。
拡散されたのは、数十分間に及ぶ口論と小競り合いの、もっとも刺激的な「5秒間」だけを意図的にトリミングした代物だった。元を辿れば、思春期特有のコミュニティ内の閉塞感、友人間の些細な金銭・人間関係の縺れが、撮影者による意図的な編集によって「一方的な惨劇」へと仕立て上げられていたのだ。背後には、動画をバズらせてフォロワーを稼ごうとする同世代のアカウントが存在し、彼らの無自覚な悪意が火種を巨大な業火へと変えていた。ネット上で拡散された「主犯格」とされる人物の情報に至っては、過去にトラブルのあった全くの第三者の顔写真が無断転載されたものであり、虚構の上に虚構が塗り重ねられていた実態が浮かび上がる。