BAD HOPの物語を語る上で避けて通れないのが、彼らの出身地である神奈川県川崎市川崎区(池上町周辺など)の過酷な生活環境です。公害の街として知られた工業地帯の片隅で、貧困、家庭崩壊、暴力が日常茶飯事だった環境で彼らは育ちました。
双子の兄弟であるT-PablowとYZERRは、幼少期に両親の離婚を経験し、借金取りに追われるような極貧生活を経験しています。中学時代には不良グループの抗争に巻き込まれ、少年院への収容や保護観察処分など、ストリートの裏社会と隣り合わせの生活を送っていました。当時の特番インタビューや自著・手記でも「音楽がなければ刑務所にいるか、命を落としていた」と赤裸々に告白しています。
転機となったのは、少年院を出たYZERRがT-Pablowにラップを勧めたことでした。2012年に開催された「第1回 高校生RAP選手権」でT-Pablow(当時はK-九)が優勝し、その圧倒的な存在感を全国に知らしめます。続いて第5回大会ではYZERRが優勝を果たし、兄弟揃っての優勝という前代未聞の快挙を成し遂げました。
個人のスキルで名を上げるだけでなく、地元の幼馴染8人で結成したBAD HOPとして活動を本格化。メジャーレーベルに頼らず、インディペンデント(自主独立)のスタイルを貫きながらYouTubeやSNS、サブスクリプションサービスを駆使して自力でファンベースを拡大していきました。横浜アリーナ、幕張メッセ、日本武道館と会場規模を急拡大させ、最終的に2024年2月19日の東京ドーム単独公演で5万人以上の観客を動員するという、日本のヒップホップ史上に残る伝説を完成させました。