一方で、納豆が胃腸に良いとされる背景にも確かな生化学的根拠が存在します。ネット上の一部言説では「納豆のネバネバ成分はムチンであり胃壁を守る」と語られがちですが、これには一部学術的な誤解が含まれています。かつて動物性粘液と同様に扱われていた植物の粘性物質ですが、納豆の糸を構成する主成分はポリグルタミン酸とフルクタン(果糖の重合体)です。
このポリグルタミン酸はカルシウムの吸収促進のみならず、傷ついた粘膜の修復プロセスを間接的に助け、乾燥や酸刺激から組織を保護する物理的なバリア機能を果たします。これが科学的な見地から見た納豆の胃粘膜保護効果の実態です。胃酸の攻撃から胃壁を守るクッションとしてのポテンシャルは確かに秘められています。
さらに、Btjフーディーラボなどの専門機関による研究データが示す通り、納豆菌の整腸作用と胃への影響にはユニークな特性があります。納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)は「芽胞」と呼ばれる強固な殻に包まれているため、pH1〜2という強烈な胃酸の海を生き抜いて腸内へと到達できます。ただし、注意しなければならないのは、納豆菌が活発に発酵活動を行い、腸内フローラを改善するのは主に「腸」に達してからという点です。胃の中を通過する段階では、納豆菌自体が胃の消化を直接代行してくれるわけではありません。むしろ納豆菌が腸内で急激にガスを産生する過程で腹部膨満感が強まり、その圧迫が上部の胃に波及して不快感を覚えるケースもあるため、胃炎と納豆の相性を評価する際は、胃単体だけでなく消化管全体の連動性を考慮する必要があります。