トムが暮らす屋敷の主として、幾度となくほうき片手にトムを叱責する「お手伝いさん(Mammy Two Shoes)」。常に首から下のストライプのエプロンとスリッパ姿しか映らず、「なぜ顔が隠されているのか?」「本当はどんな顔をしているのか?」という謎は、昭和のテレビ放映時から視聴者の好奇心を刺激し続けてきました。
長年「一度も顔が描かれたことがない」と信じられてきましたが、これは明確な誤りです。1950年公開の短編『土曜の夜は(Saturday Evening Puss)』において、わずか数フレーム(時間に換算して約0.2秒)だけ、彼女の顔が正面からはっきりと映し出されています。パーティーに行くためにドレスアップして家を出るシーンで、画面の右端を横切る瞬間に、ふくよかなアフリカ系アメリカ人女性の素顔が確認できるのです。
しかし、この歴史的シーンは後に大きな社会的議論を呼ぶことになります。お手伝いさんの描写は、当時のアメリカ南部における典型的な黒人メイドのステレオタイプ(マミー・フィギュア)に基づいていたためです。1960年代の公民権運動の高まりを受け、制作会社メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)およびその後の配給網は、テレビ再放送にあたって該当シーンを白人女性の姿へと全コマ描き直すリアニメーション処理を実施しました。声も白人声優の吹き替えへと差し替えられたため、現在流通している正規版では「幻の素顔」を目撃することは極めて困難な状態となっています。