物上代位の実務を理解する上で、日本の司法判断が辿ってきた解釈の歴史を避けて通ることはできません。かつて民法304条が定める「賃貸」について、抵当権は使用収益権を債務者に残す制度である以上、賃料には物上代位できないという見解が有力でした。しかし、バブル崩壊後の不良債権処理が急務となった時代背景を受け、最高裁平成元年10月27日判決は、抵当権者が賃料債権へ物上代位できることを明確に肯定しました。この物上代位と賃料の判例によって、不動産収益からの優先回収スキームが確立されたのです。
しかし、実務が定着するにつれて「賃借人が退去する際の敷金との相殺」をめぐり、さらなる激しい法廷闘争が勃発しました。抵当権者が賃料を差し押さえた後、賃借人が賃貸借契約を終了して退去する際、滞納賃料を敷金から当然に差し引くことができるのかという問題です。
これに決着をつけたのが、最高裁平成14年3月28日判決です。最高裁は、物上代位と敷金返還請求権の関係について、「賃貸借契約終了に伴い明け渡された場合、それまでに発生した未払賃料債権は、敷金が存在する限度で当然に敷金から控除充当され、差押えを受けた賃料債権であっても消滅する」と判示しました。敷金は本来、賃料を含む一切の損害を担保する目的で預けられた金銭であるため、たとえ抵当権者が先に賃料を差し押さえていても、賃借人の敷金充当の利益が優先されるという判断です。
この判例法理が意味する実務上の教訓は極めて重いといえます。抵当権者が賃料を差し押さえて「これで毎月回収できる」と安心したとしても、テナントが差押えを嫌気して退去を申し出た場合、滞納された賃料が敷金から全額相殺され、差押債権者には1円も配当されない事態が法的に起こり得るからです。