天文単位の歴史における最大の転換点は、中国・北京で開催された2012年の第28回国際天文学連合(IAU)総会における「決議B2(Resolution B2)」でした。この総会において、世界中の天文学者が長年抱えていた構造的な問題に終止符が打たれました。
2012年以前の古い定義では、ドイツの大数学者カール・フリードリヒ・ガウスが1809年に提唱した「ガウス引力定数」に基づき、「質量がゼロの仮想小惑星が太陽の周りを一定の周期で公転する円軌道の半径」という、きわめて複雑な力学モデルが採用されていました。しかし、この定義には天文学の進歩に伴って無視できない2つの致命的な欠陥が露呈していました。
1つ目は、太陽の質量が一定ではないという物理的事実です。太陽は中心核での核融合反応によって毎秒約400万トンもの質量をエネルギーへ変換して放散しているほか、太陽風によって膨大な荷電粒子を宇宙へ吹き飛ばしています。太陽の質量が減少すれば引力も弱まり、旧定義に基づいた場合、地球軌道や天文単位の物理的距離そのものが年間数センチ単位で徐々に変動してしまいます。
2つ目は、アインシュタインの一般相対性理論がもたらす時空の歪みです。レーダー観測や惑星探査機の精密誘導技術が急速に発達した結果、観測者が太陽系内のどこに位置するか(重力ポテンシャルの高低)によって時間の進み方や空間の曲がり方が異なり、旧来の定義では観測基準点ごとに天文単位の数値がミリ単位・センチ単位で食い違う事態に直面しました。
当時のIAU総会決議の現場では、議場に集った天文学者たちから「これで相対論的な座標系の混乱から完全に解放される」との評価が上がったと記録されています。太陽の振る舞いや観測者の座標系から完全に切り離し、「1 au = 149,597,870,700 m」というSI単位(メートル)の固定値として再定義したことで、現代の精密宇宙工学と天体観測は揺るぎない基盤を手に入れたのです。