理学療法士・作業療法士の国家試験において、腕神経叢の損傷病態は極めて配点比率の高い頻出分野です。特に上位型麻痺である「エルブ麻痺(Erb palsy)」と、下位型麻痺である「クランプケ麻痺(Klumpke palsy)」の鑑別は、受傷機序と特有の異常肢位をセットで押さえておく必要があります。
1. エルブ麻痺(上位型麻痺:C5・C6損傷)
分娩時に児頭が強く牽引されたり、バイクの転倒事故などで頭部と肩が引き離されるような強い外力が加わった際に生じます。損傷を受けるのはC5・C6神経根、すなわち腕神経叢の「上幹」です。
これにより、三角筋、棘下筋、上腕二頭筋、腕橈骨筋、回外筋などが重篤な麻痺に陥ります。結果として腕は「肩関節内転・内旋、肘関節伸展、前腕回内、手関節掌屈」という特徴的なポジションに固定されます。この姿が、後ろ手でチップを要求する給仕人の仕草に酷似していることから、「ウェイターズ・チップ肢位(Waiter's tip deformity:チップをねだる手の肢位)」と臨床上呼ばれます。
2. クランプケ麻痺(下位型麻痺:C8・Th1損傷)
高所から落下する際に咄嗟に木の枝を掴んでぶら下がった場合や、骨盤位分娩で上肢が上方に強く引き上げられた際に発生します。障害部位はC8・Th1神経根、すなわち「下幹」です。
尺骨神経や正中神経を介して支配される手内筋(虫様筋・骨間筋)が全滅するため、MP関節が過伸展し、IP関節が屈曲する鷲手変形を呈します。さらに、Th1レベルの交感神経線維(星状神経節近傍)が巻き込まれることで、患側に縮瞳、眼瞼下垂、眼球陥凹、顔面発汗停止を伴う「ホルネル徴候(Horner syndrome)」を合併することが国試で頻繁に問われる決定打となります。
また、成人の臨床で遭遇頻度が高い「胸郭出口症候群(TOS)」も腕神経叢の絞扼が根本原因です。 腕神経叢が前斜角筋と中斜角筋の間で圧迫される「斜角筋症候群」、鎖骨と第1肋骨の間で挟まれる「肋鎖症候群」、烏口突起下方の小胸筋停止部で締め付けられる「小胸筋症候群(過外転症候群)」の3大絞扼部位を解剖図と照らし合わせて把握しておくことが、臨床実習を乗り切る武器となります。