咳をする瞬間に生じる胸痛について、臨床の現場では「痛みの性状」が最初の重要な問診項目となります。咳という動作は、胸腔内圧を一瞬にして時速数十キロから数百キロ相当のジェット気流に匹敵するレベルまで高め、肋骨、肋間筋、胸膜、さらには縦隔の臓器に極めて強い物理的負荷をかけます。
患者が訴える表現として頻繁に見られるのが、咳胸の痛みチクチクとした浅い刺激感です。皮膚のすぐ下や肋骨の隙間に沿ってピリピリ、チクチクと走る痛みの場合、肋間を走行する末梢神経が刺激されている肋間神経痛の疑いが生じます。肋間神経痛は、激しい咳による筋肉の過度な緊張や、帯状疱疹の前駆症状、あるいは背骨の歪みによって引き起こされ、咳やくしゃみ、深呼吸、上半身をひねる動作で痛みが瞬間的に増悪するのが特徴です。
一方で、深呼吸や咳に合わせてズキズキと深く差し込むような激痛が生じる場合、肺の表面を覆う胸膜に炎症が及ぶ胸膜炎や、肺胞の一部が破裂して空気が漏れ出す自然気胸を疑わなければなりません。肺自体には痛みを感じる知覚神経が存在しませんが、胸壁の内側を覆う「壁側胸膜」には豊富な神経が分布しています。そのため、病変が胸膜に接触したり擦れ合ったりすることで、呼吸運動に直結した鋭利な疼痛(胸膜性胸痛)が発生します。