本作の最大の魅力は、卓越した脚本家・金子茂樹が手掛けた「ヘリクツを芸術の域にまで高めた会話劇」にあります。主人公の岸辺満(生田斗真)は、大学中退後に起業した特殊なコーヒー店がわずか9カ月で挫折し、以来6年間にわたり実家で母親に寄生し続ける31歳のニート。一般的なドラマであれば「ダメ男の成長物語」として劇的な更生劇を描きがちですが、本作は主人公の理屈っぽさを徹底的に肯定も否定もせず、家族の日常風景の一部として軽妙に描ききりました。
日本の地上波プライム帯ドラマとしては珍しい「30分×2話(1話につき2エピソード)」という変則スタイルを採用した点も、物語のテンポ感を飛躍的に高めました。サザエさんやちびまる子ちゃんといった国民的アニメのように、「すき焼きと自転車」「カニとパジャマ」など身近な日常の題材を軸に展開する構成は、視聴者にストレスを与えることなく、上質な舞台劇を観ているかのような没入感を提供しました。
その完成度の高さは業界内でも絶賛され、脚本の金子茂樹は第38回向田邦子賞を受賞。日常の些細なすれ違いや家族特有の遠慮のなさを、ユーモアとペーソスを交えて描く筆力は、令和のホームドラマ史における金字塔と断言できます。