『熱き心に』の歌詞は、単なる旅情ソングの枠を超え、人生の黄昏と不屈の意志を鮮烈に対比させた文学的傑作です。冒頭のフレーズから聴き手を圧倒的な情景の中へと引き込みます。
「北へ帰る人の群れは 誰もみな無口で」という一節は、日本の伝統的な旅情詩や名曲『北帰行』へのオマージュを感じさせつつ、都会の喧騒や挫折を背負った人間たちの孤独を切り取っています。寒風吹きすさぶ北の原野という過酷なシチュエーションを描くことで、逆境にあっても決して消えることのない情熱の火を際立たせる構造になっています。
サビで歌われる「熱き心に 時よ注げ(つげ)」「おお空よ 大地よ」という壮大な呼びかけは、個人の感傷を超越した普遍的な祈りへと昇華されています。松本隆の筆致は、昭和の男たちが抱えていた言葉にできない挫折、郷愁、そして再び立ち上がろうとするエネルギーを、大自然のスケール感へと仮託しました。
音楽社会学的な視点で見れば、バブル経済へと向かう狂騒の1980年代半ばにおいて、日本人が置き去りにしかけていた「土着の情念」や「孤独と対峙する男の美学」を、最新のシティポップ的洗練をまといながら呼び覚ました点に、本作の決定的な意義が存在します。