「汚名返上」と並んでよく使われるのが「名誉挽回(めいよばんかい)」です。両者は似たシチュエーションで用いられますが、対象となる言葉のベクトルに決定的な違いがあります。
「名誉」は本来持っていたポジティブな価値や誇りであり、「挽回」には「引いて元に戻す・取り戻す」という意味があります。つまり、「名誉挽回」は失ってしまったプラスの評価を元通りに回復することを意味します。これに対して「汚名」は押し付けられたマイナスの評価であるため、「返す(返上)」という言葉が結びつきます。
ここで問題となるのが、日常会話などで耳にすることの多い「汚名挽回」です。結論から言えば、「汚名挽回」は伝統的な日本語の語法としては明らかな誤用と判定されます。文字通りに解釈すると「汚名(悪い評判)を挽回(取り戻す)」となってしまい、わざわざ悪評を再び手元に引き戻すという奇妙な意味になってしまうためです。
なぜこの誤用が広く定着してしまったのか。言語学的には「汚名返上」と「名誉挽回」という類似した2つの四字熟語的表現が頭の中で衝突し、無意識に合体してしまう「混淆(こんこう)」と呼ばれる現象が原因とされています。文化庁が過去に実施した「国語に関する世論調査」でも、「汚名挽回」を誤用と知らずに使っている割合が一定数存在することが示されており、言葉の混同がいかに根深いかが浮き彫りになっています。