物語の構造上、御門のあごがクローズアップされるシーンは、映画全体の最大の転換点(ターニングポイント)となっています。御門から背後を抱え込まれた瞬間、かぐや姫は鳥肌が立つほどの絶望と恐怖を味わい、心の中で「月に帰りたい」と強く願ってしまいます。
かぐや姫にとって、これまで求婚してきた公達たちの嘘や欺瞞はまだ「拒絶」で対処できるものでした。しかし、自らを美の頂点と信じて疑わない御門の身勝手な抱擁は、彼女の尊厳を根底から踏みにじる暴力そのものでした。御門の尖ったあごが彼女の首筋に迫る構図は、権力による精神的な侵食を象徴するホラー的演出として機能しています。
あごの鋭さは単なるギャグ要素ではなく、かぐや姫が人間界に見切りをつけ、哀しい別れへと舵を切る決定的な引き金だったのです。この文脈を理解した上でシーンを見直すと、初見時の笑いは一転して、深い哀愁と緊張感へと塗り替えられます。