心理学の観点から見ると、「忘れたい」と強く意識すること自体が、皮肉にも記憶の定着を促進してしまうことが科学的に証明されています。これは認知心理学で「皮肉過程理論(シロクマ効果)」と呼ばれる現象です。
「特定の対象(シロクマ)のことを絶対に考えてはいけない」と指示されると、脳は「考えていないか」を監視するために無意識下でその対象を検索し続け、結果として思考がその対象で支配されてしまいます。恋愛においても、「彼の声を忘れたい」「彼女の笑顔を忘れたい」と強く念じる行為そのものが、脳内の神経回路を刺激し、相手の記憶を鮮明に保ち続ける引き金となるのです。
また、精神分析における「代償行為(他の相手で寂しさを紛らわせる行動)」も、本来の対象とのギャップを際立たせるため、かえって執着を強める結果を招きます。『忘れたい』の歌詞は、この人間の不条理な認知構造を極めて的確にトレースしているといえます。