故事成語の「虎穴」を、具体的な「組織」として定着させた最大の立役者が、昭和の劇画界を代表する原作者・梶原一騎(作画:辻なおき)による名作漫画『タイガーマスク』(1968年連載開始)です。
作中に登場する「虎の穴」は、スイスのアルプス山脈の奥深くに本部を置く世界規模の悪役レスラー養成機関です。世界中から身寄りのない孤児や素質のある若者を集め、殺人プロレスの英才教育を施します。過酷を極める訓練は脱落者が命を落とすことも日常茶飯事で、卒業率はわずか数パーセントという徹底した実力至上主義の秘密結社として描かれました。
主人公の伊達直人(タイガーマスク)は、この組織をトップの成績で卒業した悪役レスラーでしたが、自身が育った孤児院「ちびっこハウス」への支援を決意し、組織への上納金(ファイトマネーの半分)の支払いを拒否して脱退します。これを裏切りとみなした「虎の穴」は、次々と凶悪な刺客レスラーをリングに送り込み、命懸けの死闘が繰り広げられることになります。
昭和40年代の高度経済成長期において、この「逃れられない過酷なシステムと個人の矜持」という対立構造は当時の読者に強烈な衝撃を与えました。梶原一騎の描いた冷酷非情な組織像こそが、日本社会において「虎の穴=恐怖と強さを生み出す特訓所」というイメージを強固に根付かせた元ネタです。