製薬会社の企業価値を決定づける最大の変数は、パイプラインの世代交代が成功するか否かです。現在のアステラス製薬が直面しているのは、製薬業界特有の「パテントクリフ(特許の崖)」という名の構造転換期です。
これまでの同社を牽引してきた前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の特許切れが2027年前後に迫っています。ピーク時で数千億円規模を稼ぎ出したメガヒット薬の特許満了は、バイオシミラーや後発医薬品の参入による急激な薬価下落と売上減少をもたらします。これが、株式市場が同社に対して高いマルチプル(PER)を付与できない最大の理由です。
一方で、この穴を埋める急先鋒として目覚ましい成長を見せているのが、抗体薬物複合体(ADC)である「パドセブ」の売上推移です。尿路上皮がんの一次治療において、免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」との併用療法が主要国のガイドラインで高い評価を獲得し、世界市場での売上高は急拡大を続けています。
さらに、地図状萎縮を対象とした「アイザーヴェ」や、更年期障害に伴う血管運動神経症状治療薬「ベオーザ」など、新薬群の立ち上がりが軌道に乗れば、イクスタンジの減収分を2028年以降に相殺・凌駕するシナリオが現実味を帯びてきます。アステラス製薬の将来性は、この「端境期」を新薬の販売加速でいかに短縮できるかにかかっています。