横浜市神奈川区の医療法人社団康心会「大口病院」4階病棟で異変が表面化したのは、2016年9月18日から20日にかけてのことでした。入院中だった八巻信雄さん(当時88)と西川惣蔵さん(当時88)が相次いで急性心不全などで死亡。八巻さんの点滴袋から微細な気泡と異臭が確認されたことで司法解剖が行われ、体内から界面活性剤の主成分である「塩化ベンザルコニウム」が検出されたことで、警察は連続殺人事件として捜査本部を設置しました。
犯行に用いられたのは、院内で日常的に手指や医療器具の消毒に使用されていた消毒液「ヂアミトール」でした。界面活性剤が血中に直接投与されると、赤血球が破壊される溶血作用や急激な細胞障害が引き起こされ、短時間で多臓器不全に至ります。捜査関係者の証言によると、ナースステーションに保管されていた未使用の点滴袋のゴム栓部分に、注射針を使って液体が注入された痕跡が確認されました。施錠されていない環境を悪用し、医療従事者としての専門知識を凶行へと転用した極めて冷酷な手口でした。
捜査は当初難航を極めました。不特定多数の医療従事者や見舞客が出入り可能な環境であり、点滴袋の管理体制も杜撰だったためです。しかし、事件当時に4階病棟に勤務していた元看護師・久保木愛弓受弓(逮捕当時31)のナース服から界面活性剤の成分が検出されたこと、さらに任意聴取において犯行を認める供述を始めたことから、事件発生から約1年10か月が経過した2018年7月7日、殺人容疑で逮捕に至りました。