公営競技としてファンを熱狂させるボートレースの歴史は、水面に散った選手たちの尊い犠牲と、そこから紡ぎ出された安全技術革新の歴史でもあります。水上の格闘技と呼ばれるボートレースでは、コンクリートのように硬くなった水面を時速80km以上でコーナーリングします。一度バランスを崩して水面に投げ出されれば、無防備な肉体に後続艇が突っ込む過酷なリスクと常に隣り合わせです。
歴代選手死亡事故まとめを振り返ると、創成期から昭和・平成・令和に至るまで悲劇は断絶していません。2020年2月には尼崎競艇場において、SGタイトルホルダーとして名高かったトップレーサー・松本勝也選手がレース中の転覆で後続艇と接触し、帰らぬ人となりました。さらに2022年11月、宮島競艇場で若手有望株だった中田達也選手がレース中の落水・接触により29歳の若さで命を落としたニュースは、競艇界のみならず社会全体に大きな衝撃を与えました。
こうした痛恨の事態を受け、日本モーターボート競走会はハード・ソフト両面での抜本的な対策を幾重にも重ねてきました。特に重視されたのがプロペラ接触事故防止策です。
具体的には、プロペラの翼端形状の見直しや角の面取り加工、万が一プロペラに接触しても刃物のように皮膚を切り裂かないための安全規格が強化されました。さらに、衝撃吸収性に優れた特殊ケブラー繊維を採用した防刃仕様のカポック(救命胴衣)や、頸部を保護するネックガード、強打に耐えうるフルフェイスヘルメットのインナー構造改良など、選手たちの生命を守る防護装備の刷新が継続されています。水面を極限のスピードで走る以上、リスクをゼロにすることはできません。だからこそ、現場の整備士や選手会、施行者が一体となり、わずか1ミリの器具改良に命を懸ける姿勢が続けられています。