「普段行かない場所には、非常時にも逃げられない」――この心理的な壁を壊す試みが、各地で急速に広がっている。その代表格が、平時の利活用を前提に設計された複合型タワーだ。
平日は焙煎コーヒーの香りが漂う展望カフェや、リモートワーカーが集うサテライトオフィスとして稼働し、週末には地元の青空市が階段下の広場で開かれる。屋上デッキにはフリーWi-Fiと電源が完備され、夕暮れ時には散歩中の住民が夕涼みに立ち寄る。静岡や高知の先進地区で見られるこの光景は、従来の「無味乾燥な避難階段」のイメージを覆した。
日常の動線にタワーを組み込むことで、住民は無意識のうちに避難経路の距離感と階段の段数を身体に記憶させる。防災訓練への参加率低下に頭を抱えていた自治体にとって、この日常化戦略はひとつの突破口になりつつある。