2006年、英国バンガー大学の研究チームは、気候変動が海洋環境に与える影響を調査するため、アイスランド北部の海底約80メートルから複数のアイスランドガイ(学名:Arctica islandica)を採取しました。この中に、のちに「世界一長寿な貝」として歴史に名を刻む個体が含まれていました。
中国の明(ミン)王朝時代に生まれたことにちなんで「ミン(Ming)」と名付けられたこの貝は、当初の調査で成長線のカウントから405歳と推定され、これだけでも非公式の動物最長寿記録を大幅に更新しました。しかし、2013年に炭素14年代測定法と高解像度顕微鏡を用いた再調査が行われた結果、実際の年齢は507歳(1499年生まれ)であったことが確定したのです。
一方で、この大発見は学術界に痛烈な皮肉と議論を巻き起こしました。研究チームが年齢を正確に測定するためには貝殻を切断・解剖する必要があり、「採取および分析の過程で世界最高齢の生物を死なせてしまった」という事実が明るみに出たためです。当時の報道資料や研究者の回想録によると、採取段階では外見から数百年生きている個体であるかを判別することは不可能であり、調査用トロール網によって船上に引き揚げられた時点で冷凍保存された経緯がありました。
この一件は、極限環境に生きる長寿生物の保護と調査手法のあり方に一石を投じる契機となり、現在は非破壊で年齢や生態を分析する技術の開発が急速に進んでいます。