裾上げを依頼する際、単に「何センチ切るか」だけでなく「どのような縫い方にするか」を指定しなければなりません。仕上げ方法の選択によって、服全体のフォーマル度や耐久性、経年変化の表情が劇的に変化します。
スラックス裾上げダブルシングルの使い分け
ビジネススーツやスラックスの裾処理には、大きく分けて「シングル」と「ダブル」が存在します。
- シングル仕上げ:裾を内側に折り返して表から見えないように留める仕様。最も格式が高く、冠婚葬祭(礼服・タキシード)やフォーマルな式典ではシングルが唯一の正解となります。足元をすっきりと長く見せる視覚効果があります。
- ダブル仕上げ:裾を外側に折り返してカフス(折り返し)を作る仕様。もともと英国の紳士が雨や泥はねで裾を汚さないよう折り返したのが起源とされ、スポーティ・クラシックな印象を与えます。折り返しの重みによって生地が下へ引っ張られ、センタープレス(折り目)が綺麗に落ちるという実用上の大きなメリットがあります。一般的な折り返し幅は3.5cm〜4.5cmが黄金比とされています。
ジーンズチェーンステッチの真価
デニム愛好家が裾上げで最も強くこだわるのが「チェーンステッチ」です。通常のシングルステッチ(本縫い)が表裏フラットな直線を描くのに対し、チェーンステッチは裏面が鎖状に編み込まれます。1950〜60年代のアメリカ製ヴィンテージミシン(通称:ユニオンスペシャル)で縫製された裾は、生地の織り目に対して斜めにテンションがかかります。この状態で着用と洗濯を繰り返すことで、裾に独特の縄状のウネリ(パッカリング)が生じ、美しいヴィンテージ特有の色落ち(アタリ)が完成します。現代の一般的なミシンで裾上げしてしまうと、この波打つような色落ちは得られません。
手縫い派のためのまつり縫いやり方
スラックスの裾がほつれてしまった場合や、表にミシン目を出したくないウールパンツを自宅で手直しする際は「まつり縫い(すくい縫い)」を用います。表地の織り糸をわずか1〜2本だけすくうようにして針を通し、裏側に折り返した縫い代側へ糸を渡す工程を繰り返します。糸を強く引きすぎず、わずかに遊びを持たせることで、着用して歩行した際にも表地に引きつれや窪み(エクボ)が生じず、まるでプロが仕上げたかのような美しい見た目を保てます。