一般的な蕎麦屋とこの店を決定的に分かつもの、それは素材の出発点だ。厨房の奥で黙々と仕込みを行う店主への独占取材で明らかになったのは、蕎麦栽培の土壌改良に費やした気の遠くなるような歳月だった。化学肥料に頼らず、落ち葉や堆肥をじっくり発酵させた滋養豊かな土壌が、小粒ながら力強い風味を蓄えた蕎麦の実を育む。
収穫された実は徹底した温度・湿度管理のもとで保管され、毎朝その日の気温と湿度を見極めながら石臼で自家製粉される。つなぎを一切使わない純度100パーセントの十割蕎麦でありながら、驚くほど滑らかな喉越しと、噛み締めるほどに広がる甘み。摩擦熱を極限まで抑えて挽かれた粉だからこそ、口に含んだ瞬間に野生味あふれる香りが鼻腔を抜けていく。