情報空間に氾濫する火打石のノウハウの中には、危険な誤謬や時代錯誤な思い込みが散見されます。筆者が専門家への取材と実地検証で洗い出した「見落とされがちな盲点」を糾弾します。
最も深刻なネットの誤解は、「どんな石でも硬ければ火打石になる」という言説です。花崗岩(みかげ石)や玄武岩をいくら打ち金で叩いても、粒状に崩れるだけでまとまった火花は出ません。必要なのは「均質で、割れた際にガラスのように鋭利な刃物状のエッジを形成する鉱石」です。鉱物学的知識なしに河原の適当な石を叩くことは、打ち金を無駄に傷めるだけの暴挙です。
もう一つの盲点は、打ち金の「焼き戻り」による劣化です。「火花が出にくくなったから」と、素人がバーナーで炙ったり研削盤(グラインダー)で高速研磨したりすると、摩擦熱で高炭素鋼の焼き入れが抜け、鉄が鈍ってただの軟鉄になってしまいます。一度なまされた打ち金は二度と鋭い火花を散らしません。メンテナンスは乾いた布で水分と指紋を拭き取り、薄く椿油を塗る程度に留めるのが長寿命の秘訣です。