物語の根底を揺るがした最大の事実は、「読者がシエルとして見ていた主人公は、実は双子の弟(次男)であった」という点です。1885年12月14日、10歳の誕生日にファントムハイヴ邸が襲撃され、先代当主ヴィンセントとその妻レイチェルが惨殺された夜、双子の兄弟はカルト教団に拉致され、過酷な監禁と虐待を受けました。
教団の儀式において祭壇に上げられ、短剣で胸を貫かれて絶命した生贄こそが、正真正銘の長男「シエル・ファントムハイヴ」でした。その兄の死と引き換えに召喚された悪魔(セバスチャン)に対し、生き残った弟は自らを「シエル」と偽って名乗り、契約を締結。兄の魂を代償として生き延びた罪悪感を抱えながら、当主の座と復讐の権利を簒奪したのが、いわゆる「坊ちゃん」の正体です。
この展開は唐突な後付けではなく、連載第1話から極めて綿密に伏線が配置されていました。回想シーンにおける「大人の影に隠れる内向的な少年」と「堂々と前に立つ活発な少年」の描き分け、名付け親であるマダム・レッドの回想での「双子」を示唆するコマ割り、セバスチャンが当初「シエル様」ではなく一貫して「坊ちゃん」と呼び続けていた理由など、10年以上の歳月をかけて回収された緻密な構成は、漫画史に残るプロットの妙技として高く評価されています。