かつての胡蝶しのぶは、短気で感情をストレートに爆発させる勝ち気な少女でした。原作および公式ファンブック『鬼殺隊見聞録』でも明かされている通り、両親を鬼に殺害され、姉の花柱・胡蝶カナエとともに鬼殺隊へ入隊した当初は、鬼に対する剥き出しの敵意を隠そうともしませんでした。その気性が一変した契機が、最愛の姉の死です。
上弦の弐・童磨によって致命傷を負わされたカナエは、いまわの際に「しのぶは普通の女の子として幸せになってほしい」と願いました。同時に、カナエが抱いていた「鬼とも仲良くできたらいいのに」という理想の片鱗が、しのぶの心に消えない楔として打ち込まれます。大好きな姉の夢を継ぎたいという思慕と、その姉を無残に奪った鬼への抑えがたい憎悪。この相容れない二つの感情の板挟みになった結果、彼女は「カナエのような穏やかな笑顔」を自らの顔に張り付け、心の中では「怒りの業火」を燃やし続ける道を選択しました。
蝶屋敷の屋根の上で竈門炭治郎に吐露した「自分の代わりに鬼と仲良くする夢を叶えてほしい」「ずっと怒っていますよ」という告白は、偽りの仮面の下から零れ落ちた唯一の弱音でした。姉の願った慈愛を模倣しようと試みながらも、湧き上がる殺意を消し去ることができない自己矛盾。その苦悩を背負い続けたからこそ、彼女の言葉には痛烈な哀愁が宿っています。