ドラマの主人公・小橋常子のモチーフとなった大橋鎭子は、大正から平成にかけて日本のライフスタイルを根本から変革した実業家だ。幼少期に父を肺結核で亡くし、母と幼い妹たちを守るため「自分が家長になる」と決意した境遇は、劇中の設定そのままの事実である。
生前の大橋は、常に明るく前向きな笑顔を絶やさない女性として知られていた。だがその裏には、戦前・戦中の過酷な男社会をひとりで切り拓いてきた冷徹なまでの観察眼と行動力があった。日本劇場のチケット売り場や出版社勤務を経て、20代半ばで自ら会社を興す決断を下した原動力は、家族を路頭に迷わせないという切実な生存本能だったという。
ドラマで描かれた「当たり前の暮らしを守る」という理念は、大橋自身の痛烈な戦争体験から生まれている。空襲で全てを焼き尽くされた東京で、手元に残ったわずかな布切れや廃材からいかにして人間らしい生活を取り戻すか。彼女が貫いた徹底した生活者目線こそが、後年の大ヒット雑誌を生み出す土台となった。